大判例

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福岡高等裁判所 平成11年(ネ)545号 判決

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金二億〇四〇三万四三五〇円及びこれに対する平成八年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  事案の概要

次のとおり改め、また、当審における主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決四頁一〇行目の「原告と」から同五頁初行までを「控訴人は、右各売り主ごとに別個に売り主と買い主の連署による長崎県知事宛の土地売買等届出書を作成した上、平成六年一二月二日、佐世保市都市計画課計画係を経由してこれを提出し、国土法二三条の届出をした。」と、同六行目の「各所有者に」から同九行目までを「その際、控訴人に対し本件不勧告通知に係る届出書三通の写しを添付して不勧告通知書を送付するとともに、三名の各土地所有者に対しても他の二名の届出書を含む三通の届出書の写しを添付して不勧告通知書を送付した(以下、三名の土地所有者に対する右不勧告通知書の送付を「本件不勧告通知書送付行為」という。)。」とそれぞれ改める。

二  控訴人が当審において予備的に追加した主張

控訴人が主位的に主張している履行利益の損害賠償が認められないとしても、次の損害の賠償が認められるべきである。

1  信用毀損による損害

一億三〇〇〇万円

本件不勧告通知書送付行為により肇らの買収予定価額が住民に知れ渡って控訴人は信用を失い、そのため近隣で坪当たり八万円の上限で進めていた買収価額を平均坪当たり一〇万円とせざるをえなくなり、少なくとも一億三〇〇〇万円の出費の増大を余儀なくされた。

2  手付金相当損害金

一三〇〇万円

本件不勧告通知書送付行為がなければ控訴人は三雄及び須加﨑と土地売買契約を締結し、同人らが契約に不満であれば手付金相当額の合計一三〇〇万円(甲一二、一三)の損害金を取得していたはずである。

3  従業員の給与、賞与

二三四四万円

控訴人は、平成六年七月ころから同年一二月ころまで、五名の従業員を三雄ら三名から取得予定の土地の開発関係業務に専従させ、右期間中に合計二三四四万円の給与及び賞与を支払ったが、これが無駄になった。

第三  当裁判所の判断

一  前提事実について

次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三 争点に対する判断」の「一 本件の事実経過」のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一五頁三行目から四行目の「肇が所有する」の次に「県道に接している」を加え、五行目の「右土地に隣接する三雄、須加﨑所有の土地」を「右土地の奥に隣接する三雄所有の土地及び更にその奥に隣接する須加﨑所有の土地」と改める。

2  同一六頁八行目の末尾に「なお、三雄は、土地の売買とその価額の交渉段階において、大島から坪単価約七万円を提示されていたが、肇の土地の買収単価に強い関心を持っており、これを大島に尋ねたところ、大島は、他人の土地の値段は関係ないと言いながらも、肇の土地は道路に接しているので坪当たり一〇万円位だろうと答えたので、坪当たり約一〇万円(肇の土地)と坪当たり約七万円(三雄の土地)の差ならばやむをえないと考え、坪当たり約七万円(一平方メートル単価二万一一五一円)で売買することを承諾した。また、須加﨑も、大島から坪当たり約七万円の提示をされていたが、肇の土地及び三雄の土地の買収単価に強い関心を持ち、これらを大島か控訴人代表者に尋ねたところ、教えて貰えず、ただ肇の土地は道路に面しているので須加﨑の土地よりも高いかのような話であったことなどから、なかなか売り渡す決断ができず、約三か月の間に二〇回程大島の訪問を受けた後、肇の土地は高くても坪当たり一〇万か一一万円位であろうと考え、坪当たり約七万円(一平方メートル単価二万二一一四円)で売買することを承諾した。」を加え、同一七頁八行目の「須加﨑は、」から同一〇行目末尾までを「須加﨑は、肇の土地の買収単価が予想外の坪当たり約一四万円で自分の土地の約二倍もの高額であったことから、自分の土地の値段との差が大きすぎると感じ、直ちに控訴人に対し土地は売らないと通告した。三雄も、肇の土地の買収単価が予想外の坪当たり約一四万円で自分の土地の約二倍もの高額であったことから、大島に騙されたと感じるとともに、自分の土地の値段との差が大きすぎると感じ、坪当たり一〇万円でなければ売らないと言い出した。」と改める。

二  被控訴人の国家賠償法一条の責任について

本件不勧告通知書の送付行為の違法性の有無について

前記認定の事実によれば、控訴人は、肇、三雄及び須加﨑との間で同人ら所有の各土地を買い受けることと売買予定価額を合意して証拠金を授受し、国土法二四条三項の不勧告通知を受けた後に売買契約を締結することにして同法二三条による届出をしたところ、長崎県知事が当事者に不勧告通知書を送付するに当たり、三雄及び須加﨑に対し、誤って当事者でない他の二名の届出書写しをも添付して送付したことにより、三雄及び須加﨑が肇の土地の売買予定価額を知り、控訴人との売買契約の締結を拒否するに至ったというのである。

ところで、不勧告通知書の送付行為自体は、通常何らかの法益侵害を伴うものでなく、被侵害法益とされているのは期待的利益に過ぎないのであるから、本件不勧告通知書の送付行為の違法性を判断するに当たっては、加害行為の態様と被侵害法益とを相関的に考慮して判断するのが相当である。そこで、まず、加害行為の態様についてみると、県知事が当事者に不勧告通知書を送付するにあたっては、国土庁の所管課長の通達により当該不勧告通知に係る届出書の写しを添付することになっているのに(乙二五の一、二)、過って同時に届出られた他人の届出書の写しをも添付したため、他人の売買予定価額をも知らせる結果になったというものである。次に、被侵害法益について検討するに、本件のように、土地の開発業者が一定の区域の多数の地権者との間で個々的に売買交渉を進める場合、地権者相互間に多少の価額差が生ずるのはやむを得ないことであり、いずれかの段階で価額差が明らかにされておれば、価額差は合理的範囲内に調整されていくものであるが、それを明らかにしないで交渉が進められている場合でも、何らかの経過で価額差が明らかとなったときには、その時点から価額差の合理的範囲内へ向けて調整の機会を持たなければならなくなるのは当然の帰結といわなければならない。

そうすると、控訴人が主張する期待的利益は、そのような調整の過程を経ずに売買契約が締結されることを期待する利益ということになるが、このような調整を経ることによって正常な価額形成(ここでは時価相場と場所的、地形的事情等が反映された合理的な価額をいう。)が期待されるという側面が大きいこと、また控訴人主張の期待的利益が侵害されたとして想定される損害も通常は右にいう正常な価格との差額あるいはあらためて調整の機会を持たざるを得なかったことによる費用等であって、これは多少の差があっても通常の売買交渉に伴う費用であり、それ以上の損害が想定されるとすれば、それは特別の事情による損害と考えられること、以上の諸事情を考慮すると、本件不勧告通知書の送付行為が違法であると判断するのは相当でない。

三  よって、その余について検討するまでもなく、被控訴人に国家賠償法上の責任は認められないから、控訴人の本件請求は理由がない。

第四  以上によれば、控訴人の本件請求を棄却した原判決は結論において相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川畑耕平 裁判官 岸和田羊一 裁判官 野尻純夫は、転補のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 川畑耕平)

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